微生物の力を借りて、食品や医薬品、化学品の原料をつくる。こうした「バイオものづくり」は、近年、国の成長戦略でも重点分野に位置づけられています。そのルーツと、技術の基本的な考え方、そして実用化の壁を整理します。
日本は、発酵で産業をつくってきた国
日本では古くから、麹菌や酵母を使って、酒、味噌、醤油がつくられてきました。微生物の働きを経験的に使いこなす技術は、長い時間をかけて磨かれてきたものです。
近代に入ると、その蓄積は新しい産業を生みます。1956年、日本の研究者が、グルタミン酸を大量に生産する細菌を発見しました。この発見をもとに、微生物にアミノ酸をつくらせる「アミノ酸発酵」が実用化され、日本発の技術として世界に広がりました。
微生物を「工場」にする、という考え方
バイオものづくりの基本は、微生物の細胞を、目的の物質をつくる「工場」として設計することです。細胞の中では、糖などの原料が、多数の酵素反応を経てさまざまな分子に変換されています。この反応の流れ(代謝経路)を調整し、目的の物質に原料が多く流れるようにするのが「代謝工学」です。
近年は、遺伝子を読む・書く技術が大きく進歩し、代謝経路をより精密に設計できるようになりました。開発は、次のような「DBTLサイクル」を繰り返して進められます。
Design(設計):どの遺伝子をどう変えるかを設計する
Build(構築):設計どおりの菌株をつくる
Test(評価):培養して、生産量や性質を測る
Learn(学習):結果を分析し、次の設計に生かす
実用化を阻む「スケールアップ」の壁
研究室のフラスコでうまくいった菌株が、そのまま工場で同じ性能を出せるとは限りません。培養の規模が数リットルから数十トンへと大きくなると、環境が大きく変わるためです。
酸素の供給:大きなタンクの中では、酸素を細胞全体に行き渡らせるのが難しくなる
混ざり方のむら:場所によって温度や栄養の濃度に差が生まれる
発熱の除去:微生物が増える際に出る熱を、効率よく取り除く必要がある
雑菌の混入:長時間・大規模の培養ほど、管理の難しさが増す
こうした課題を一つずつ解きながら、研究室の成果を量産へとつなげる工程は、バイオものづくりで最も時間とコストがかかる部分の一つです。
用語メモ
スケールアップ:研究室規模で得られた生産プロセスを、パイロット規模、さらに商業生産の規模へと拡大していくこと。
どの微生物を選ぶか
バイオものづくりでは、目的の物質に合わせて「どの微生物を工場にするか」を選ぶことも重要です。大腸菌、出芽酵母、コリネ型細菌など、産業で長く使われてきた微生物には、豊富な知見と実績があります。
一方で、これまで産業ではあまり使われてこなかった微生物の中にも、独自の代謝機能を持つものがあります。WAKUが取り組む分裂酵母もその一つです。基礎研究で積み上げられた深い知見を、ものづくりの技術へとつなげていくことが、私たちの挑戦です。
参考文献
Kinoshita S, Udaka S, Shimono M. Studies on the amino acid fermentation. Part 1. Production of L-glutamic acid by various microorganisms. The Journal of General and Applied Microbiology 3, 193–205 (1957).
Nielsen J, Keasling JD. Engineering cellular metabolism. Cell 164, 1185–1197 (2016).

Research & Development
WAKU 研究開発チーム
分裂酵母の菌株改変、培養、分析、スケールアップの研究に取り組むWAKUの研究開発チームです。研究の背景や技術の基礎を、できるだけ分かりやすくお伝えします。
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