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研究・技術

2026.09.24

研究・技術

グルタチオンは、細胞の中でどうつくられるのか

WAKU 研究開発チーム

グルタチオンは、ヒトから植物、微生物まで、多くの生物の細胞に含まれる抗酸化物質です。では、細胞はこの分子をどのようにつくっているのでしょうか。合成の仕組みと、それを産業規模で行うときの課題を整理します。

3つのアミノ酸からなる、少し変わったペプチド

グルタチオンは、グルタミン酸・システイン・グリシンの3つのアミノ酸がつながったトリペプチドです。ただし、ふつうのペプチドとは結合の仕方が異なります。グルタミン酸は、主鎖ではなく側鎖の「γ(ガンマ)位」のカルボキシ基でシステインと結合しています。

この「γ-グルタミル結合」は、一般的なタンパク質分解酵素では切れにくい構造です。そのため、グルタチオンは細胞内で比較的安定に存在し、高い濃度で蓄えられます。

グルタチオンの働きの中心は、システインに由来する「チオール基(-SH)」です。還元型グルタチオン(GSH)は、このチオール基で活性酸素などを還元し、自らは2分子が結合した酸化型(GSSG)になります。酸化型は酵素の働きで再び還元型に戻され、細胞の酸化還元のバランスが保たれます。

合成は、2段階の酵素反応

細胞の中で、グルタチオンは2つの酵素によって順番につくられます。どちらの反応も、エネルギー源としてATPを必要とします。

  1. 第1段階:γ-グルタミルシステイン合成酵素が、グルタミン酸とシステインを結合させ、γ-グルタミルシステイン(γ-EC)をつくります。

  2. 第2段階:グルタチオン合成酵素が、γ-ECにグリシンを結合させ、グルタチオンが完成します。

このうち第1段階の反応は、合成全体の速さを決める「律速段階」です。さらにこの酵素は、できあがったグルタチオン自身によって働きが抑えられます(フィードバック阻害)。細胞にとっては、必要以上につくりすぎないための合理的な仕組みですが、大量生産を目指す立場からは、これが一つ目の壁になります。

工業生産で、何が壁になるのか

グルタチオンの工業生産は、主に酵母を用いた発酵法で行われてきました。酵母を培養して細胞内にグルタチオンを蓄積させ、それを取り出す方法です。生産性を高めるうえでは、主に次のような課題があります。

  • フィードバック阻害:グルタチオンがたまるほど、合成の第1段階が抑えられる

  • 原料の供給:とくにシステインの供給が律速になりやすい

  • エネルギーの確保:2段階の反応それぞれでATPを消費する

  • 回収の手間:細胞の中に蓄積するため、取り出す工程が必要になる

これらは、合成に関わる遺伝子の働きの調整や、培養条件の工夫によって改善が試みられてきました。どの生物を「工場」として選ぶかも、生産性を左右する重要な要素です。

分裂酵母の場合

分裂酵母にも、グルタチオンを合成するための遺伝子が備わっています。さらに分裂酵母は、グルタチオンを材料にして、重金属の解毒に関わるファイトケラチンをつくる酵素も持っています。つまり分裂酵母の中では、グルタチオンは最終産物であると同時に、その先の分子づくりの出発点にもなっています。

用語メモ

ファイトケラチン:グルタチオンを材料につくられるペプチド。システインのチオール基で重金属と結合し、細胞を重金属の毒性から守ります。植物や一部の酵母に見られます。

グルタチオンを「つくる」仕組みと、その先へ「つなげる」仕組みの両方を持つこと。WAKUが分裂酵母に注目している理由の一つは、ここにあります。

参考文献

  1. Meister A, Anderson ME. Glutathione. Annual Review of Biochemistry 52, 711–760 (1983).

  2. Li Y, Wei G, Chen J. Glutathione: a review on biotechnological production. Applied Microbiology and Biotechnology 66, 233–242 (2004).

  3. Noctor G, Foyer CH. Ascorbate and glutathione: keeping active oxygen under control. Annual Review of Plant Physiology and Plant Molecular Biology 49, 249–279 (1998).

  4. Clemens S, Kim EJ, Neumann D, Schroeder JI. Tolerance to toxic metals by a gene family of phytochelatin synthases from plants and yeast. The EMBO Journal 18, 3325–3333 (1999).

Research & Development

WAKU 研究開発チーム

分裂酵母の菌株改変、培養、分析、スケールアップの研究に取り組むWAKUの研究開発チームです。研究の背景や技術の基礎を、できるだけ分かりやすくお伝えします。

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