一般コラム
農作物の低温障害対策|寒さで根が動かない・生育が止まる原因と対策



寒くなってから、生育が止まった、葉色が悪い、根が動かない、肥料を入れても効いていないように見える。
秋冬作では、こうした変化が起こることがあります。
低温になると、単に植物の成長速度が遅くなるだけではありません。根の活動、光合成、養分獲得、植物体内の酸化還元バランスなど、複数の生理機能が影響を受けます。
まずは保温や地温管理によって、植物が受ける低温ストレスそのものを減らすことが基本です。
そのうえで、避けきれない温度変化に対して、植物自身が環境へ適応する仕組みをどう支えるかという考え方もあります。
農作物の低温障害とは?どんな症状が出る?
低温障害というと、霜や凍結によって葉や茎が傷む「凍霜害」を想像しがちです。
しかし、凍結しない温度でも、作物にとって適温を下回る状態が続けば、
生育が遅くなる、止まる
新葉の展開が鈍る
葉色が悪くなる
根の伸長が鈍る
水分・養分獲得が不安定になる
光合成が低下する
開花や着果が不安定になる
といった変化が起こることがあります。
つまり、「凍っていないから問題ない」とは限りません。
低温は、根や光合成、代謝、細胞膜など植物のさまざまな機能に影響します。
寒くなると、なぜ根が動かなくなる?
低温期に特に注意したいのが、気温だけでなく根域温度です。
低温条件では、根の伸長や生理活性が低下し、水分や養分獲得が制限されることがあります。

トマトを用いた研究では、低温条件下で根域を加温したところ、根の乾物重や生長速度が増加し、無機養分の獲得や木部液の流出量も増加しました。その後、地上部の生育や果実収量にも差が確認されています。[1]
つまり、
低温
↓
根の活動が鈍る
↓
水分・養分獲得が不安定になる
↓
地上部の生育も鈍る
という流れが起こる可能性があります。
「肥料を入れているのに株が動かない」というときは、肥料量だけではなく、そもそも根が十分に働ける環境なのかも確認することが重要です。
低温では光合成やストレス応答にも影響する
低温の影響は、地下部だけではありません。
低温下では植物の代謝や光合成能力が低下しやすくなります。
一方で光の吸収は続くため、特に低温と強い光が重なる条件では、吸収した光エネルギーを十分に利用できず、光阻害や活性酸素種(ROS)の増加につながることがあります。
ROSは植物のストレス応答に使われる重要なシグナルでもありますが、過剰に蓄積すると、細胞膜やタンパク質などへの酸化的な負荷につながります。
イネの根を用いた研究でも、低温条件で酸化ストレスや細胞損傷に関連する指標が増加することが報告されています。[2]
そのため植物は、さまざまな抗酸化システムを働かせながら、ROSのバランスを調節しています。
低温障害対策で、まず見直したいこと
低温対策の基本は、植物が受ける寒さをできるだけ減らし、根が働ける環境を維持することです。
例えば、
トンネルや不織布などで保温する
マルチなどで地温低下を抑える
気温だけでなく根域温度を確認する
過湿による根域の酸素不足を避ける
低温時の過剰施肥や高ECを避ける
施設栽培では温度と湿度を見ながら適切に換気する
といった対策が基本になります。
特に秋冬作では、日中の最高気温だけでなく、夜間から早朝にかけて根域がどこまで冷えているかにも注意が必要です。
それでも、寒さを完全になくすことはできない
暖房や被覆、地温管理などで栽培環境を整えることは重要です。
しかし、露地栽培はもちろん、施設栽培でも急な寒波や日照不足など、すべての環境変化をなくすことはできません。
そこで考えたいのが、
環境側から低温ストレスを減らす
+
植物側から環境適応を支える
という二つのアプローチです。

植物自身にも、温度変化を感知し、遺伝子発現、代謝、抗酸化システムなどを調整しながら環境へ適応する仕組みがあります。
低温ストレスと「グルタチオン」
株式会社WAKUが着目しているのが、植物自身も体内に持つグルタチオンです。
グルタチオンには、還元型グルタチオン(GSH)と酸化型グルタチオン(GSSG)があり、そのバランスは植物細胞内の酸化還元状態、いわゆるレドックスと深く関係しています。
低温ストレスに関する研究では、植物体内のGSH量やグルタチオン代謝がROS制御や低温応答と関係することが報告されています。
例えばイネでは、低温条件下でGSH量の増加や抗酸化系の応答が、低温耐性の違いと関連していることが報告されています。[3]
また、植物体内のグルタチオン量を高めたイネでは、低温条件下でレドックス恒常性や側根の発達が維持され、低温ストレスへの耐性が高まったという研究もあります。[4]
ただし、ここで注意が必要です。
これらは主にGSHや植物体内のグルタチオン量についての研究であり、酸化型グルタチオン(GSSG)を施用すれば、そのまま同じ低温耐性が得られることを示すものではありません。
WAKUでは、GSHとGSSGを含むグルタチオンのレドックス系全体と植物の環境適応との関係に着目しています。
WAKUFULは「寒さをなくす資材」ではありません
WAKUが開発する「WAKUFUL」は、酸化型グルタチオン(GSSG)を活用したバイオスティミュラントです。

WAKUFULは、暖房や被覆の代わりになる防寒資材ではありません。
目指しているのは、
低温、高温、乾燥など変化する環境の中で、植物自身が状態を調整する仕組みを支えること
です。
植物の環境適応には、
ストレス応答
根の発達
光合成
養分獲得
など、複数の生理機能が関係しています。
実際にイネでは、育苗期に外部からGSSGを施用した試験で、移植後の新生根数や総根表面積が増加したことが報告されています。[5]
この研究は低温耐性を検証したものではありませんが、GSSGが育苗・移植後の根の立ち上がりに影響する可能性を示す研究として注目されます。
WAKUでもキャベツ苗を低温環境に置いて簡易観察
WAKUでは、市販のキャベツ苗を用いて、GSSG施用後の低温環境における苗の状態を簡易的に観察しました。
GSSGを施用した苗と無施用の苗を0℃近くの環境に一晩置き、その後通常環境で1週間管理しました。
1週間後の写真では、GSSG施用区で無施用区と比べ、葉色や株姿が比較的維持される傾向が観察されました。

市販キャベツ苗
右の苗についてはGSSGを施用
その後、左右ともに約0℃の環境に一晩静置
その後通常環境で管理し、1週間後に撮影
※本観察は市販苗を用いた簡易的な社内観察です。反復試験や統計解析を行ったものではなく、本結果のみからGSSGによる低温耐性向上を示すものではありません。
WAKUでは今後も、条件を統一した試験を通じて、低温環境下でのグルタチオンの働きを検証していきます。
低温対策は「寒くなってから」ではなく「寒くなる前」から
秋冬作では、
育苗 → 定植 → 地温低下 → 冬季の低温
と、植物を取り巻く環境が連続的に変化します。
そのため、寒くなってから対処するだけではなく、育苗・定植段階から根や植物全体の状態を整えておくことも重要です。
秋冬作で「定植したのに苗が動かない」「根張りが悪い」と感じている方は、こちらの記事でも詳しく解説しています。
高温による環境ストレスについては、
もあわせてご覧ください。
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よくある質問
低温障害と凍霜害は同じですか?
同じではありません。凍霜害は霜や凍結によって植物組織が直接損傷する現象です。一方、凍結しない温度でも、その作物の適温を下回る状態が続けば、根の活動や光合成、代謝が低下し、生育不良につながることがあります。
何℃から低温障害が起こりますか?
作物、品種、生育段階によって異なるため、一律には決まりません。「○℃以下なら低温障害」と判断するのではなく、その作物の適温、根域温度、生育状態を合わせて確認することが重要です。
寒くなると肥料が効きにくく見えるのはなぜですか?
低温条件では根の生長や生理活性が低下し、水分や養分獲得が制限されることがあります。そのため、肥料量だけでなく、根域温度や水分、酸素状態など、根が働ける環境になっているかを確認することが重要です。[1]
WAKUFULを使えば低温障害を防げますか?
WAKUFULは暖房や被覆に代わる防寒資材ではありません。まず保温、地温管理などの基本的な低温対策が必要です。そのうえで、植物自身の環境適応に関わるグルタチオンを活用し、植物側からストレス応答を支える補完的なアプローチとして位置づけています。
参考文献
[1] Kawasaki Y. et al. (2014)
Effect of Root-zone Heating on Root Growth and Activity, Nutrient Uptake, and Fruit Yield of Tomato at Low Air Temperatures.
低温条件下のトマトで、根域加温により根の生育・養分獲得・地上部生育・収量が改善。J-STAGE
[2] Huang C-W. et al. (2019)
Biochemical responses of rice roots to cold stress.
低温ストレスを受けたイネ根で、酸化ストレスや抗酸化酵素応答を解析。PubMed Central (PMC)
[3] Yu P. et al. (2020)
ATP Hydrolysis Determines Cold Tolerance by Regulating Available Energy for Glutathione Synthesis in Rice Seedling Plants.
イネの低温耐性とGSH合成・抗酸化応答の関係を解析。PubMed Central (PMC)
[4] Park S-I. et al. (2021)
Enhanced glutathione content improves lateral root development and grain yield in rice plants.
グルタチオン量を高めたイネで、低温条件下のレドックス恒常性や側根発達との関係を報告。PubMed
[5] Mohri T. et al. (2024)
Exogenous Application of Oxidized Glutathione During the Seedling Stage Promotes Root Growth After Transplantation and Potentially Increases Panicles in Rice.
育苗期のGSSG施用によって、移植後の新生根や根表面積などが増加したことを報告。
この記事を書いた人
Yuta Nakamura
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